あてにならない君の約束 3
2018/07/15 Sun 18:00
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違和感に気付いたのは、もう日本に来た後だった。
あれからただ、チャンミンのことを忘れるべく、仕事に専念した。仲間内にはすでに、俺とチャンミンのことは広まっているようで、ドンへたち以降その話題で連絡をよこす者はいない。
折しも、半年ほど前から海外事業のプロジェクトチームに選任されていたユノは、別れる少し前に上司から現地担当者として日本へ出張できないかと打診されていた。
チャンミンと離れることを考えていなかったユノは断っていたのだが、上司は二年だけ我慢すれば出世コースに乗れるんだから、と熱心に説得していたのだ。
新しい家を探して中途半端に住むよりは、いっそ転勤した方が引越しも二度手間にならずに済む。
上司に前倒しで現地に行けないかと調整し、ユノはチャンミンと別れてから一ヶ月後には日本支社に着任していた。
赴任手当で金銭面の負担はなく同棲を解消できたことを得したかな、と計算高く考えられたのは、それを仕事のためにする引越しだと強く意識したからだ。二人の思い出がたくさんある家を離れるための作業も仕事のタスクの一つのように処理した。業者に連絡し、解約の手続きをして、必要なものはあらかた友人と一緒に運び出したらしいチャンミンの、残った荷物は梱包を業者に依頼し、言われたままチャンミンの実家へ送る。
たくさんある仕事の一つと思えば、思わなければ、いけなかった。
油断すれば、眠るまでの短い一瞬でもチャンミンと過ごした六年間がユノの脳裏に浮かぶ。
一番思い出すのは、あの匂い。
チャンミンほど、ユノが心落ち着く匂いのアルファには出会ったことがなかった。
抑制剤の処方を受けるためにバース科にかかりに行ったとき、そこで始めてユノは前の発情期から三ヶ月以上たっていることに気付いた。
手帳を見ると最後の発情期から、すでに五ヶ月は経っている。
行為のときにはきちんと避妊をしていたから妊娠の可能性はないと思っていたが、やはり検査の結果は陰性で、妊娠が原因ではなかった。
医師には「発情期が不順になってますね」と言われても、ユノはそれがどういうことなのか、どう受け止めればいいのかわからない。
ストレスだろうか。そういったホルモンバランスの不調は、ストレス問題が多いと聞く。
チャンミンの別れで食欲落ちたまま戻らず、ここの所まともに食事らしい食事をしていない。精神状態は最悪だ。仕事も引継ぎのために毎日残業しこのまま日本へ行っても本当に大丈夫なのか不安になるほど案件が山のようにあった。引越しの手配に、着任して新しい環境と人間関係。やらなければいけないことはたくさんあり、自分が望んだこととはいえ、倒れそうな忙しさだった。その影響が、体にこういった形で表れたとしても、なんら不思議ではない。
ぼんやりとそう思っていたユノに、医者は電子カルテでユノの血液検査の数値を見ながら尋ねる。
「チョンさん、ご結婚はされてますか」
「いえ…」
「では、番っている相手は?」
「それも、いません。」
「…ちょっと、うなじを見せてくださいね」
背中をむけたユノの襟もとを引いて、医師がうなじを見たのは一瞬だった。
「結構ですよ」と言い、前を向きなおしたユノに、淡々と告げる。
「うっすらとですが、うなじに瘢痕組織が発生しています」
「はんこん、そしき?」
「傷が治る過程で発生するものです。性行為のときに、うなじや首筋に歯を立てられるようなことはなかったですか」
医師の言葉に、ユノは黙り込む。
心当たりはあった。チャンミンに後ろから抱かれるとき、当たり前のように首筋やうなじに、歯を立てられていた。ほとんどが軽くで、噛もうとしているわけではない。舐めて、口付けて、その中の愛撫の一つのような行為だった。
大学を卒業したら結婚しよう、番になりましょう、は高校のときからチャンミンはよく口にしていた。
行為を覚えたばかりのとき、首筋に唇が当たることさえ、万が一があったらと拒むユノを「いつかは番うつもりだから」「それが少し早くなるだけのことです」「でも、学生の間はそんなことにならないように気を付けますから」。
そんな甘い約束とともに、キスマークをつけたい、とお願いされたのが、最初だった気がする。
ユノとしては、順序を守った形で番になりたい気持ちは強かったが、万が一、もしもがあっても、チャンミンなら大丈夫だと、すっかり安心していた。
「……番がいるオメガの体になっているということですか?」
「この程度の噛み傷では、番は成立しません……が、発情期が不順になったり、アルファの匂いを感じにくくなったり、他のアルファにフェロモンが匂いにくくなるのでオメガ性という意味では、かなり影響を受けると思います。子供もできにくくなりますし、他のアルファと番契約をする際、成立しない可能もあります。だから、安易にうなじは触れさせてはいけないんです」
「……すみません」
思わず謝るユノに、医師は溜息を吐く。きっと、こういうオメガが増えてきているのだろう。
学校の保健でも習うことだ。避妊と同じように、本来意図しない番契約を結んでしまうリスクがあるから、うなじに対しては結婚相手でもない限り安易に触らせない、触らないのがマナーだと。
わかっていたのに、簡単な気持ちで許してしまった。番契約の真似事のような、そういうことによる性的興奮に負けたのだと、周囲に言っているようなもので、ユノは恥ずかしくなる。
「とりあえず、不順になってしまった周期を整えましょう。今日は注射しておきますので、一週間以内に発情期に入るはずです。抑制剤とは別にホルモン剤を出しておきますので、毎日決まった時間に飲むように。なにか質問はありますか?」
「いえ……ありがとうございました」
お大事に、と素っ気なく感じる言葉に見送られて、ユノは病院を後にした。

チャンミンにも何か悪影響があるんじゃ……でも連絡もできないし……ごめんな…
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あと二話でおさまるのか不安になってきました…がんばります……
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ホルモンの乱れというオメガ独特の問題に直面ですか。一難去ってまた一難‼‼ユノ〜応援してるからね
ところでにあと二話で終わりなんですか?えぇ〜えぇ〜‼モヤモヤに比例してユノ幸薄率がグングン伸びてます。このままなのか、これ以上伸びるのかブルブルしながら応援してますよ!
♡ホラー♡楽しみにしてます‼
これが切っても切れない腐れ縁ってやつですかね?!
モヤっとボール集めてますのでたくさん投げてください!!!!!!(え?
オメガバース御都合主義の独自設定で好き勝手やってるのについてきてくれて嬉しいです(ノ∀`)!!
おっしゃる通り、アルファには番解消の負担がないように、今回の件でチャンミンに影響はほぼないです。他のオメガのヒートに耐性がややつくくらいかな?と(もはやメリット?)
ひとまずユノ視点のまま最後まで突っ走ります!!ユノ視点だと見えないチャンミンのチクっと…あるんですが、きっとわからないままかもしれないです…(盛り盛りもやっとスペシャル
アルファの男と付き合うのは初めてで、他を知らなさそうなゆのよん……
アッ!!!家庭を…?!?!!
ゆのゆの愛が…!!さすがです…!!笑
こんなことになったので簡単に次の恋にゴー!とはならないユノヒョン。
たぶんですね…幸薄率は限界突破して終わるんじゃないかなと思います…(不吉な予言)
予告通りのもやっとエンドに心構えをしていただければ……。
ホラーも読まれるとのこと!!よかったです!!苦手な方もいらっしゃると思いますが、一生懸命怖い話にチャレンジします〜〜( ᷇࿀ ᷆ )!!!
ひとまず、無事に結ばれた二人。この後は異動話になるので、急に付き合って3、4年のカップルになることもありインターバルに真逆の短編はさんでみました( ᷇࿀ ᷆ )
う〜ん、このお話の最後は見る人によってハッピーエンドか、バットエンドか変わるかもしれないです。
幸せに……どうでしょう…?チャンミン視点をいれると五話に書き切れないので一度ユノの視点メインで完走します!!