ヒョンの言い分 4

2018/05/23 Wed 21:14









*




「悪い、チャンミン。お前、自分で言うって言ってたから、もう言ってるもんかと……」


 申し訳なさそうに謝るマネヒョンに、チャンミンは大丈夫です、気にしないでと、そう言ってやりたかったが、言葉がうまく出てこなかった。


 ――俺に彼女ができたことを、俺がいない場でそのことを知らないユノに話すような場面って、どんな場面ですか?


 まったく意味がわからない。
 口を開けば責めるような口調になるのがわかってるから、なかなかチャンミンは返事を返せない。
 そんな無言がチャンミンの苛立ちのせいだと付き合いの長いマネヒョンがわからないはずはなく、結果的にチャンミンは無言で抗議をした形となった。
 本当に申し訳なかった。沈痛にもう一度真剣に謝られ、チャンミンはようやく重い息を吐きだす。

「……大丈夫です。」

 喉に張り付いた言葉をひっぺがして、形だけでも謝罪を受け入れた。








 結論からいうと、チャンミンが危惧していることは何も起きなかった。

 その後、顔を合わせたユノは普段と変わりなく普通だった。黙っていたことを裏切りだと思われて、冷たくされたり、怒られるのかと思っていたのに。今は言わないだけで、後でなにか言われるかもしれない。そんな緊張感で数日経ってもチャンミンだけがそわそわして落ち着けずついに耐えきれなくなった。
 だからユノと二人きりになった時に、チャンミンは自分からこの問題をはっきりさせるべきだと思った。


「ユノヒョン。知ってるんですよね、僕の、その……彼女ができたこと」
「知ってるけど、どうかしたか?」


 iPadで動画を見ているユノは視線を上げないまま、ごくあっさり答える。
 曲のテンポにあわせてテーブルでカウントを取っていた指先もそのまま乱れず、動揺している様子は微塵もない。隠し事のうまいユノの反応を一つも見逃さないようにと、チャンミンはユノをじっと見つめる。


「隠していて、すみません。」
「いいよ。お前、真面目だから気まずかったんだろ。」


 彼女ができた後もユノを抱いていた日もあったのに、真面目な男と評価するユノは、どこまでわかっているのだろうか。
 だけどチャンミンが思っているよりも、ユノは理性的にチャンミンの考えを察していた。
 男同士とはいえセックスをしている間柄で、他にもそういうことをする相手ができたと報告するのは勇気がいるだろうと。ましてや、仕事で毎日のように顔を合わせるユノが相手なら尚更。


「怒られると思ってました。」
「………俺が?」


 そこでやっとユノが弾かれたように顔を上げた。大きな黒目がくりっとまんまるに開かれる。
 「どうして?」そう言った後に、ユノは思いついたように「あ。お前の彼女に嫉妬して?」
 ユノの言葉は正確なようで、どこかチャンミンの思っているのとは、ズレている感じがした。


「まあ…。なんだか、二股をかけてしまったような気分になってしまって」
「気にしすぎだよ、俺たち付き合ってるわけでもないんだし。彼女できてから俺としてないなら、問題ないだろ」
「してましたけど…。」
「え、……それはお前……」


 チャンミンの悩みを笑い飛ばすようにからっと笑ったユノの表情が一転して、難しい顔になる。
 知らず知らずのうちに浮気相手になっていたのが自分で、ユノは言葉を見失ったようだった。
 「それだったら、二股というより浮気だな」と意味もないコメントを言って、「でも、大事なのはこれからだよ」ともっともらしい言葉で、締めに入ろうとする。
 会話が終わりそうな気配に、チャンミンは気になっていた事を、もうそのまま聞いてしまっていいかという気になった。


「怒らないんですか?」
「セックスの時期が重なってたのは、正直すこしショックだけど……お前ほんと元気な…」
「ヒョンは僕のことが好きだと思ってました。」
「あ~なんだ。それはちゃんとわかってのか。」
「それはやっぱり好きだってことですか?もちろんラブの意味で」
「だから、そう言ってるだろ…?
 ……あーわかった。好きな相手を取られて、そういう意味で怒ってると思ってんだな?」


 チャンミンの遠回しな確認に困惑するユノは、それでも何かを隠そうとする素振りはなく素直にチャンミンに気持ちを打ち上げる。不自然なほど、自然に。
 そしてチャンミンがすべてを言うまでもなく質問の意図を理解して、ユノは正解をひらめいたことを喜ぶように笑ったが、真剣なチャンミンの顔にまたテンションを戻して苦笑する。


「好きだけど、別に俺たち付き合ってるわけじゃないんだし。恋人取られたら、そりゃ俺だって怒るけど、好きな相手を取られたからって怒ったりはしないよ。怒る立場でもないし」
「でも、セックスはしていた」
「セックスしてても別に付き合ってたわけじゃないだろ?俺たちの関係には、約束もなにもないんだから」
「……理解しがたいですね、好きだったのにそんなあっさりといられるものですか?」
「俺もお前の言いたいことがわからないけど…。あのさ、お前は俺になにを言わせたいの。別にお前は俺を好きなわけじゃないだろ?」
「それは………………まぁ、そういう意味では、ないですけど」


 むけられる穏やかな瞳に、チャンミンの方も自分が何が言いたいのかわからなくなってくる。

 思っていた通り、ユノは恋愛的な意味で本当にチャンミンが好きだった。
 じゃないと、セックスであんな風に好きだとか愛してるなんて、性欲を満たすためのムード作りのためだけに、しつこく言わせるはずがない。
 それを言おうとしなかったチャンミンを置いて帰るくらいには、ユノは本気だった。


 チャンミンはそういうことをわかった上で、ユノから与えられる快楽がほしくて、ユノが求めてるものと交換にしてそれを得た。お互いにほしいものを交換しあっている関係で、それは対等に思えたし、本心ではない愛の言葉に対する罪悪感もなかった。

 思えばきちんと服を着た状態で、お互いの気持ちを話すのはこれが初めてだ。
 ユノはチャンミンを愛してると言いながら、チャンミンが他の女と付き合うことを受け入れる。セックスの間、ユノの愛撫から、指先からひしひしとチャンミンへの情をにじみ出ていた。

 ――――いつか、この快楽と引き換えに、付き合うことを約束させられるかもしれない。

 そんな風に心のどこかで警戒すらしていたのに。



「何も心配することないよ、チャンミン。寂しくなったらまた俺のところに来ればいいし、俺はお前の味方だよ」
「……ありがとうございます」
「さすがに、浮気相手っていうのはアレだけど……まあ、男同士だし、別枠ってことでいいだろ。ケンカしたらヒョンが慰めてやるから」


 明るく笑うユノは、きっとチャンミンが本心でない愛の言葉を囁いてまでして欲しがった快楽をユノがチャンミンに与えなくなるのではないかとチャンミンが不安に思っているんだと思っているのだろう。
 それはたった三十分前までは正解で、今は不正解だった。


 ユノの口から出る言葉は、素晴らしくチャンミンに都合がいいことばかり。

 これから彼女がいても、ユノはセックスをしてくれる。
それを怒ることもないし、そのことが仕事に影響することもない。
 そんな話をまったくユノが無理して言っているわけではなく、本当にそう思ってごく当たり前のようにチャンミンに言ってきた。そんなの、当たり前じゃないのに。

 猫のようにくしゃっと笑ったユノの顔。チャンミンはなぜか無性に、泣きたくなった。






20180523211149.jpg
参ったな……(なんかさっきより近づいてないか…?(∵;))



5話以下の短編カテゴリにいれてるので、急激に終わりにむけて走り出しました。

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ヒョンの言い分 | コメント(6)
コメント
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な***様
たった五時間で、まったくテンションの違うコメントをさせてしまってすみません…(そしてそれを楽しんですみません←)

ユノヒョンは、きちんと自分がずるい手段でチャンミンの「好き」や「愛してる」を引き出していることは自覚済みなんですね。たとえその場のベットの上での睦言としてでも、そういうことをあのチャンミンから言ってもらえるだけで満足しているようです。
いざユノに、もしも「好きだって言ったじゃないか」と言われたとしても(実はそのたぐいのことを言われるかとびびっていた話し合い前のシム)、ベットの中での言葉を本気にしたんですか、ぐらいはっきり言うべきかなと思っていたり…。

それぐらいお互いに、ベットの中でのっていうのは各自わかっていたので、ユノは今更なんでそんなことを?だし、チャンミンはお互いわかってるよな…でもユノの態度から言って、交際をいつか迫られるんじゃ…と危惧していたので、それがただの考えすぎだってことがわかりつつも………なお話しでした。(無駄に解説)(無粋ですかな??)(ふふふ)

次で終わりにして短編におさめたいものの、あと二話くらいになりそうな…むむう、どうするか悩み中です。
な***様
わ!入れ違いでしたね!(*'ω'*)

そしてこんな短時間に何度も読んでいただいてうれしいです。(誤字報告もお待ちしてます)(ちゃっかり)

ほんとにwwマネヒョンいじりがほんとwwwツボですwwwww
意識しているわけじゃないのにコメント読んで気付くマネヒョンの存在感……気付きをありがとうございます(*´Д`)笑
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ま***様
書き終わって読んだら思いの外切ない感じになって、鈴木も驚いています…(おい)

盛り込もうとしは話をカットして次で終わりにしようと思っていたのですが、ま***様からもういっちょ!の声をいただき連載カテゴリに移動させる決心がつきました。あと二、三話書いて終わりにしようかと思います。まさかの延長戦ですが、引き続きお付き合いください(*^^*)

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